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患者が支えるバイオバンクとその未来

患者が支えるバイオバンクとその未来 シンポジウムが11/13(日)に、東京大学医科学研究所にて開催された。患者団体、研究者、難病支援団体などさまざまな立場から多くの方々が参加し、1号館講堂の席は埋まり、熱気に満ちたシンポジウムであった。

日本では文科省リーディングプロジェクト「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」が推進されており、第1期(平成15年度-19年度)では約30万症例のDNA・血清試料を集めたバイオバンク・ジャパンが構築され、第2期(平成20年度-24年度)ではこの試料を活用して、遺伝情報解析が進められ、36の疾患関連遺伝子、12の薬剤関連遺伝子が同定されてきた。今年6月には医療イノベーション会議が「医療イノベーション推進の基本的方針」において、医療分野が今後のわが国の経済成長を担う重点分野として個別化医療を推進することが掲げられており、バイオバンク・ジャパン、個別化医療への期待が高まっている。

本シンポジウムは文科省リーディングプロジェクト「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」の主催で開催された。アメリカでは、患者団体が試料やグラントを研究者に提供するなどして協力して疾患研究を進め、患者団体がバイオバンクを運営する取り組みも始まっているとのことで、本シンポジウムではハンチントン病の研究を推進してきた遺伝病財団(Hereditary Disease Foundation) 理事のアリス・ウェスクラーさん、弾力性繊維性仮性黄色腫(PXE)の研究を推進してきたジェネティック・アライアンス代表のシャロン・テリーさんがこれまでの取り組みを講演された。

13:30 開会あいさつ 武藤香織(東京大学医科学研究所 准教授)
13:45 講演 アリス・ウェクスラー氏(遺伝病財団 理事)
14:25 講演 シャロン・テリー氏(ジェネティック・アライアンス 代表)
15:20 パネル・ディスカッション
松原洋子氏(立命館大学生存学研究センター 教授)
指定発言
増井徹氏(難病研究資源バンク、医薬基盤研究所 室長) 他
シンポジウムのタイトルや開催趣旨には希少・難治性疾患とはないが、厚生労働省「希少性難治性疾患患者に関する医療の向上及び患者支援のあり方に関する研究班」が共催し、プログラムではハンチントン病の研究を推進してきた遺伝病財団理事のアリス・ウェスクラーさん、弾力性繊維性仮性黄色腫(PXE)の研究を推進してきたジェネティック・アライアンス代表のシャロン・テリーさんが講演し、ハンチントン病や弾力繊維性仮性黄色腫(PXE)はいずれも希少難治性疾患であることから、希少難治性疾患研究を患者団体と研究者がいかに連携して推進してゆくかというのがテーマのシンポジウムであった。

東京医科歯科大学難治疾患研究所で癌やアルツハイマー病などの難治性疾患研究に取り組むなか、最近、いわゆる希少・難治性疾患研究を研究者の立場でどのようにすれば推進してゆけるかを考え、社会的活動に取り組み始めており、そうした問題意識でこのシンポジウムに参加した。

アリス・ウェクスラーさんは母親がハンチントン病と診断されたことで、その研究を推進してきた。
ハンチントン病の母をもつ歴史学者。カリフォルニア大学ロサンジェルス校女性学研究センター研究員。母親の診断後、父や妹とともに、ハンチントン病の原因を見つけるため、研究者探しに奔走し、研究用の寄付金を集めてきた。1979年から20年間にわたり、ベネズエラにあったハンチントン病の大家系を一軒ずつまわり、4000名から血液提供を受けていったことが知られている。これらの血液は、ハンチントン病の遺伝子の発見に大きく貢献し、医学研究に深くかかわるアメリカの患者・家族のモデルとなった。1986年、一家はハンチントン病の研究を推進するため、遺伝病財団(Hereditary Diseases Foundation)を創設し、現在も研究者をサポートしている。代表作に、ハンチントン病のリスクをもった娘としての葛藤を描いた“ウェクスラー家の選択” 新潮社(2003)がある。
アリス・ウェクスラーさんがいかにしてハンチントン病の解明を目指して、その研究を推進してきたかは、アリス・ウェクスラー(著), 額賀淑郎, 武藤香織(訳), “ウェクスラー家の選択 ” 新潮社(2003)に詳しいので、そちらを参照されたい。

印象に残ったのは、アリス・ウェクスラーさんの“私たちが何を学んだのか?”である。
What have we learned?
1. A few good scientists can mobilize others.
2. Emphasizing commonalities among disease is important.
3. Small informational workshops can bring in new researchers and generate new hypothesis.
4. Young investigators not yet committed to a particular approach are a great resource.
5. Lay people can learn science. Many HD family member are quite knowledgeable about the disease.
最後に疾患に”顔”を与えること、すなわち、疾患名ではなく、その疾患を罹患した患者と研究者が交流することの意義を述べられていた。

ここで研究者としてのジレンマは、希少性疾患は、希少性疾患ゆえにいわゆるありふれた疾患(common disease)と異なり、研究者としては手が出しにくいというところである。

このジレンマは、パネルディスカッションのなかの、アリス・ウェクスラーさんとシャロン・テリーさんの確信をもった答えでもはやジレンマでなくなった。それは、希少性疾患はいわゆるありふれた疾患(common disease)の研究の新しいアプローチになりうるということである。例えば、ハンチントン病の疾患の機序の解明は、アルツハイマー病の機序の解明の新しいアプローチになりうる。

それどころか、希少性疾患の機序の解明は、ヒトのあらゆる疾患の機序の解明およびその疾患の創薬にきわめて大きな役割をはたすのではないか。

シャロン・テリーさんは2人のお子さんが弾力性繊維性仮性黄色腫(PXE)と診断されたことで、夫パトリックとPXEインターナショナルを創設し、その研究を推進してきた。それどころか、PXEインターナショナルでつくりあげた体制は、他の希少性疾患の研究の推進にも活用できるということで、1200もの希少性疾患の研究を推進するジェネティック・アライアンスを立ち上げるなど、非常に戦略的に取り組んでこられている。

本シンポジウムは、東京大学医科学研究所の武藤香織先生らがオーガナイズされたものであったが、非常に素晴らしいオーガナイズで、パネル・ディスカッションではフロアからの鋭い質問にアリス・ウェクスラーさんとシャロン・テリーさんが非常に的確な回答をし、松原洋子先生が非常に上手に司会をするなど、熱い議論が展開された。

Categories: Symposium.

BioHackathon 2011

BioHackathon 2011 シンポジウムのあと、BioHackathon 2011が8/22(月)-26(金)の5日間にわたり、京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンターで行われた。国内外から70名で、国外からは27名が参加した。前回のBioHackathon 2010はRDFとは何かというところからはじまり、Tokyo manifestoが起案されるなどした会議であった。今回はUniProtやPDBj、DDBJなどがRDFを提供するなかでの”Linked Dataを扱うための技術開発”がテーマで、ハックが中心となった。
OpenBio*, SADI (Semantic Web service), LinkedData, ConstructionOfLinkedDataDB, ButterflyData, Ontology, Glyco-annotation ontology, Textmining, Visualization (Cytoscape), BioDBCore, TripleStoreSurvey, RDFDataSharing, G-languageの13のグループにわかれて、議論を重ねてハックした。
データベースプロバイダではなく、利用するバイオインフォマティクスのユーザの立場での、Linked Dataのユースケースはこれまでにあまり検討されてこなかった。そこで、Construction of Linked Dataのグループでは、Linked Data利用のユースケースと、そのメリット・デメリット、コストについてユースケースを通じて検討した。
主要公共データベースのデータではなく、個別のプロジェクトのデータをRDF型式に変換して、RDFストア上にデータベースを構築し、そこでのデータ解析のユースケースを検討した。RDFストアVirtuosoをインストール、セットアップし、アルツハイマー病死後脳のマイクロアレイデータをRDFに変換してそのRDFを公開し(BH11Ujicha)、そのSPARQLエンドポイントも公開した。この公開したSPARQLエンドポイントへの検索結果について、クロールのRuby/Pythonプログラムとファセット(Facet)のビューアを開発した。
個別のプロジェクトのデータとして遺伝子発現データ、とくにアルツハイマー病死後脳のパブリックな遺伝子発現データを用い、遺伝子発現解析のユースケースを検討した。遺伝子発現データとその遺伝子のアノテーション情報、遺伝子調節関係、文献情報などをRDFとしてストアし統合化し、SPARQLにより疾患群と正常群での有意差解析や疾患の進行ステージ群での有意差解析の倍率変化やP値などの条件検討を行い、その条件に適合した遺伝子を検討するべき候補遺伝子として得る。得られた候補遺伝子について、遺伝子のプロバティのURIのリンク先のRDFをクロールして情報を入手し、ファセットによる層別化の解析を行った。ファセットによるビューアは、ユーザにデータを多面的に検討することを可能にするもので、データドリブンの研究を強力に支援するものである。また、RDFでデータをストアすることで、データへのメタデータがオントロジーとして定義されることで、データを解析・可視化するプログラムとの相互運用性が高く、ファセットのビューアに入力されたデータによって、自動的にそのデータのメタデータ(オントロジー)から適切な解析・可視化するプログラムを選択して、ファセットビューを構成することが可能である。これはデータベース統合の課題のひとつが解決する可能性をもっている。一方で、このメタデータ(オントロジー)はユーザが作成しなければならず、Linked Dataの無視できない、現状では非常に大きなコストであるといえる。類型化が可能なデータであればメタデータ(オントロジー)のテンプレートを用意することで、ユーザのメタデータ(オントロジー)作成のコストを下げることができるだろう。あるいは、メタデータ(オントロジー)の作成支援を自動化することが可能かもしれない。
これまでLinked Dataは、オープンなLinked Dataとして外部公開を目的にするコンテキストでそのメリット・デメリット、コストが語られてきた。外部公開を目的としたLinked Dataではなく、それぞれのユーザが個別のプロジェクトのデータへの Linked Dataの利用は、データ管理やデータ統合のコストを下げることに貢献し、さらにメタデータの利用により徹底的なデータ解析やデータ可視化に貢献する可能性をもっている。
利用するバイオインフォマティクスのユーザの立場として開発を進めてきたグループには、他にVisualization (Cytoscape)とG-languageのグループがある。CytoscapeのグループはSPAQRLエンドポイントとの連携とそのエンドポイントでの結果にもとづくRDFのグラフの可視化に取り組んでいた。一方、G-languageのグループではURIからのRDFに限定しないクロールのプログラムの開発とLinkedDataの膨大な検索結果の統計解析によるプライオタイジングに取り組んでいた。
総括すると、RDFを利用したLinkedDataでのデータベース化は、あるシーンではRDFはもっともよい選択肢ではないかもしれないが、考えうるあらゆるシーンを検討すると、もっともよい選択肢ではないか。
宇治の辰巳屋で京料理、伏見の鳥せいで日本酒を楽しむなど、夜も参加者間の交流を深めることができた。非常に貴重で、有意義な時間を提供してくださったBioHackathon 2011のオーガナイザー、こうした活動を支援しているバイオサイエンスデータベースセンター (NBDC) とライフサイエンス統合データベースセンター (DBCLS)に感謝したい。
*なお、本稿の一部はエーザイの中尾光輝さんのご協力をいただきました。ありがとうございました。

Categories: Conference.

BioHackathon 2011 シンポジウム

BioHackathon 2011が8/22(月)-26(金)の5日間にわたり、京都にて開催されるが、その公開シンポジウムが開催された。参加者は国内外から70名で、国外からは27名が招待されている。その様子はUSTREAMでライブ中継された。

BioHackathon 2011のテーマは”Linked Dataを扱うための技術開発”である。バイオサイエンスデータベースセンター (NBDC) とライフサイエンス統合データベースセンター (DBCLS) では、ライフサイエンス分野のデータベースの統合の基盤としてRDF の利用を推進している。医学生物学の異種多様なデータを統合するには RDF をLinked Data (RDF)の利用が有効と考えられるためである。BioHackathon 2011では、そのための技術開発を行う。オントロジーの整備からWebサービスやデータベース記述の標準化が必要になるが、国内外から主要な開発者が参加し、face-to-faceで顔をあわせて開発会議を行おうというものである。

シンポジウムのプログラムは以下の通りである:

10:00 Opening remarks
Toshiaki Katayama
Introduction to the NBDC/DBCLS BioHackathon 2011
Atsuko Yamaguchi
The Program Concerning Technology Development for Database Integration
10:30 Morning session (long talks)
Jerven Bolleman
SPARQLing UniProt RDF: Using RDF based technologies to aid biological curation efforts
Joachim Baran
BioMart introduces semantic-web querying to federated biomedical-scale databases
Mark Wilkinson
SADI and Semantic Web services
11:45 Group photo
12:00 Lunch
13:30 Afternoon session (short talks 5~10min each)
Andrea Splendiani
Biomedical semantics in the Semantic Web
Michel Dumontier
From Triples to Axioms: On the Path to Formalizing Scientific Knowledge
Matus Kalas
The EDAM ontology of data and methods, and BioXSD
Trish Whetzel
NCBO Web services and the Development of Semantic Applications
Vladimir Mironov
RDF Foundry – a call for a community effort to harmonize triple store practices
Susanna Sansone
BioSharing: data sharing standards, resources and cooperating procedures
Philippe Rocca-Serra
ISA infrastructure: collecting and managing multi-omics datasets with rich semantics
Camille Laibe
MIRIAM Registry: annotations and cross referencing framework
short break
Erick Antezana
Semantic Systems Biology: enabling integrative biology via Semantic Web technologies
Robert Hoehndorf
Ontology-based integration and analysis of phenotypes
Bruno Aranda
PSICQUIC – Standard access to molecular interaction databases
Kevin Livingston
Modeling and Populating a Large Biomedical Knowledge Base for Genome-Scale Analysis
Rutger Vos
The Tree of Life as central unifying concept for the integration of phylogenetic knowledge
Chris Zmasek
Connecting TOPSAN to Computational Analysis via Semantic Web Technology
Martin Gerner
Large-scale information extraction through text mining
Pyung Kim
URI Resolution and Management Service with LOD
Open Bio* projects
Interoperable libraries for the Semantic Web
16:00 Open space discussion
18:30 Reception @ 2F hall
20:30 Closing

やはりこうして開発者がface-to-faceで顔をあわせて、議論したり、ハッキングすることでイマージしてくるものがある。こうした貴重な機会を提供しているオーガナイザー、こうした活動を支援している、バイオサイエンスデータベースセンター (NBDC) とライフサイエンス統合データベースセンター (DBCLS)に感謝したい。

Categories: Conference.

ユニセフ ちっちゃな図書館プロジェクト

ユニセフ(国連児童基金)の全面的な協力のもと、子どもたちやお母さんを中心に東日本大震災の被災者の方々への支援活動を展開している財団法人日本ユニセフ協会は、現在、各地の避難所に”子どもにやさしい空間-Child Friendly Space-”を作る準備を進めています。
そしてこの度、この子どもにやさしい空間づくりの一環として、被災地の子どもたちに日本全国の皆様の想いの詰まった絵本と笑顔を届ける”ユニセフ ちっちゃな図書館プロジェクト“をスタートします。
ユニセフ ちっちゃな図書館プロジェクトでは、JBBY(日本国際児童図書評議会)が推薦する児童書とともに、全国の皆さまから贈られた本を組み合わせた”ユニセフ ちっちゃな図書館セット”を作ります。絵本や紙芝居を中心とした乳幼児セット(0才~6才)と、児童書中心の小中学生セット(7才~14才)の2種類のBOXにまとめられ発送されます。なお、BOXのデザインやロゴなどの制作は電通社会貢献・環境推進部が全面的にサポート。

みんなの想いを絵本に乗せて、被災地の子どもたちの笑顔へとつなげていくために。
あなたもぜひ、絵本を贈って『ユニセフ ちっちゃな図書館』プロジェクトに参加しませんか。
絵本については、当初の想定を大幅に上回る寄付で、絵本の受付は一旦中止としているとのこと。紙芝居と小学校高学・中学生向け児童書が不足しているとのことで、紙芝居をAmazonで注文し、日本ユニセフに送付した。被災地の子どもたち、とくに幼い子どもたちのことを思うと、胸が痛む。どうか被災地の子どもたちの希望と勇気につながりますように。

Categories: Social.

Science@creativecommons Tシャツ

クリエイティブコモンズのScience@creativecommonsのTシャツを購入したのだが、3週間かかって届いた。届くのを心待ちにしていたので、一足早いクリスマスプレゼントだ。

science@creativecommons T-shirts now available in the CC store!というニュースのなかで、

Now you can show your love for Creative Commons and science at the same time by buying one of these t-shirts, available for $20 over at the CC store.

を目にしてしまったら、購入しないわけにはいかないだろう。

Science Commonsは、サイエンスにおける情報共有や研究活動のオープン化を進めることを目的とした、クリエイティブ・コモンズの派生プロジェクトだ。

Science@creativecommonsのTシャツは、ウェブコミックXKCDのカートゥーンの使用許諾を得たデザインになっている。このTシャツ3枚にScience Commonsのステッカーが付いてきた。

If you love science as much as we do, then hurry over to the CC Store and get your limited edition shirt today!

もっともこのScience@creativecommonsのTシャツを着ることができるのは当分先のことになりそうだ。Tシャツを着ることができるのは先のことだが、オープンなマインドでサイエンスを楽しむ気持ちはいつも持ち続けたいね。

Categories: Garment.

アドベントカレンダーティー

ドイツから持ち帰った、ゾネントールのアドベントカレンダーティーを夜になると妻と楽しんでいる。アドベントカレンダーはアドベントの期間中に窓を毎日ひとつずつ開けていくカレンダーだが、このアドベントカレンダーティーは24種類のハーブティーをアドベントの期間中楽しめるというものだ。

ドイツはオーガニックなハーブティーの種類が豊富だ。これでシュトーレンがあれば言うことはない。今夜のハーブティーは、ハーブティーをもったかえる君が描かれた„FROSCH IM HALLS‟の„SMOOTHING THROAT‟のハーブティーだ。

NMLのNML特選クリスマス名曲集をかけながら、アドベントカレンダーティーをおいしくいただいた。

かえるくんというと、村上春樹氏の短編集「神の子どもたちはみな踊る」に収められている「かえるくん、東京を救う」の短編を思い出す。もっとも、この短編集のなかでは「蜂蜜パイ」の短編がもっとも気に入っているのだが。この「神の子どもたちはみな踊る」はロバート・ログヴァ監督によって映画化され、今年10月に日本で公開された。神戸への学会出張のパッキングしているときに、ふと「神の子どもたちはみな踊る」を手にとり、スーツケースに入れた。神戸に滞在中、ホテルのベッドで眠りに就く前に丁寧に読み返した。

… かえるくんは口をつぐみ、話し疲れたように軽く目を閉じた。
「それで」と片桐は言った。「あなたと私と二人で地下に潜り、みみずくんと闘って、地震を阻止する」「そのとおりです」…
- 村上春樹「 かえるくん、東京を救う」(「神の子どもたちはみな踊る」より)

神戸では仕事の合間をぬって、神戸ルミナリエをみて、15年前の震災を思った。すべてはつながっているとそう思いながら、美しい電飾と、お父さんに肩車される幼い子どもたちを見つめた。

Categories: Gourmet.

皇居東御苑の紅冬至の梅

皇居東御苑を妻と娘と散策した。皇居東御苑は散策にうってつけだ。二の丸庭園、花菖蒲、そして昭和天皇が武蔵野の面影を残そうと造られた二の丸雑木林がある。

平川門から皇居東御苑に入り、天神壕をみながら、梅林坂を上ってゆく。梅林坂には梅林のなかの一株の紅冬至の梅が、この厳しい寒さのなか可憐な花を咲かせていた。

万葉集に筑前介佐氏子首が詠んだ梅の花の和歌がある。

万代に年は来経とも梅の花絶ゆることなく咲きわたるべし
-  万葉集 八三〇番 筑前介佐氏子首

梅林坂は文明10年(1478年)に太田道灌が菅原道真を祀り、梅樹数百株を植えたためにこの名があるといわれている。もっとも現在の梅樹は昭和42年(1967年)に植えられたものとのことである。この紅冬至の梅が絶ゆることなく咲くように、万代に人々がこの梅を楽しむことができればいいのだが。

皇居東御苑の魅力は、二の丸庭園や花菖蒲もさることながら、二の丸雑木林だろうと思う。

消えていく武蔵野を救おう、武蔵野の面影をここに残そうとの昭和天皇のご意向が実り、あの雑木林は誕生したのです。…しかし、あまり知られてはいないのですが、この雑木林を作った背景には、もうひとつの大きな理由がありました。…昭和天皇は大正12年の関東大震災をご経験なさっております。…そのときに被災の現場をご覧になって、その悲惨さを身をもって実感されていたのです。「武蔵野の森を残したい」とのお考えになられたのは、実はこの関東大震災のご記憶によるところが大きかった。東京の町から空き地や雑木林が年々失われていく様をお嘆きになり、もし、再び関東大震災のような災害が起こったら、このままでは市民が避難する場所さえなくなってしまうとお考えになられた。ならば、ここに避難場所を確保しよう……それが、二の丸の雑木林をお作りになった昭和天皇のご意向だったのです。避難場所にするためには、ただ広場だけを用意するのではいけない。舗装したり、芝を植えただけの広場だと、夏なんか暑くていられない。だから森を作れ – そこまで考えておられた。しかもその森の中に、一般の市民が歩けるような小道を通せ、舗装はするなという仰せでした。そうすれば、普段は市民の憩いの場となり、非常時には避難できる場所になる。昭和天皇は科学者として厳しい目で自然を観察なさる一方で、こうした非常時のことも常にお考えになり、さらにその上で非常に優しい眼差しを、この皇居の自然に注いでいらっしゃったのです。
- 田中 直(元昭和天皇侍従)平成7年談「皇居の森」

二の丸雑木林の小径を分け入って歩くと、武蔵野の自然のなかに分け入っているようで、東京の真ん中にいることを忘れてしまう。

三の丸尚蔵館の近くに十月桜が2株ほどこちらも可憐な花を咲かせていた。

これから梅林坂の紅冬至や八重寒紅の梅の花が咲きそろってゆくのだろう。また散策するのが楽しみだ。

Categories: Nature.

コナノコ スコーン

本郷真砂坂のこじんまりとした焼きたてスコーン専門店である。店名のコナノコ スコーンは粉の子どものようなかわいくて美味しいスコーンをイメージしたとのこと。焼きたての、さまざまな種類のスコーンを、紅茶やコーヒーと共に楽しむことができる。国産小麦、アルミニウムフリーのベーキングパウダーと自家製酵母を使用している。

4種類の異なる生地を使用し、さくふわ、ざくほろ、ざくざくの異なる食感の10数種類以上の焼きたてのスコーンを楽しむことができる。

バニラビーンズとハニーレモンのスコーン、それにカプチーノをいただいたが、バニラビーンズはさくふわの食感で、小麦粉の風味も高く、おいしかった。

白を基調とし、木製のテーブルと椅子の落ち着いた雰囲気のなか、スコーンはもちろん、紅茶やコーヒーを楽しむことができる。テイクアウトもできる。真砂坂ということで、人通りもそれほど多くなく、こじんまりとしているので、静かに読書しながらアフタヌーンティーをしたいときにうってつけの、そんなスコーン専門店である。

コナノコ スコーン 東京都文京区本郷4-15-6 共栄ビル 1F
平日・土曜日 8:00-20:00, 日曜日・祝日 11:00-18:00

Categories: Gourmet.

BMB (Biochemistry and Molecular Biology) 2010

第33回日本分子生物学会年会・第83回日本生化学会大会合同大会が12/7(火)-10(金)の4日間にわたり、神戸ポートアイランドにて開催され、ポスター発表してきた。

参加者はおおよそ1万人ほどであろうか。プログラムは特別講演、シンポジウム、ワークショップ、一般口頭発表、ポスター発表、バイオテクノロジーセミナーなどにより構成されている。シンポジウム、ワークショップは、従来100テーマ程度開催されていたものを70テーマ程度に絞られていた。ポスター発表は5,154件にのぼっていた。

ちなみに、ライフサイエンス QA (β)をもとに集計すると、いわゆる次世代シークエンサー関連の研究発表はワークショップ8件、シンポジウム2件、ポスター96件の計104件で、ポスター発表が5,154件であることを考えると、意外と少なかった。

私は以下のポスター発表を行った:
3P-1308
AlzPathway: アルツハイマー病のリスク遺伝子探索や分子機序の解明のための網羅的パスウエイマップ
飯島里紗, 水野聖士, 荻島創一*, 菊地正隆, 宮下哲典, 桑野良三, 福原武志, 田中博

製薬企業の研究者をはじめとした方々に興味をもっていただくことができ、有意義なディスカッションをすることができた。

今回、初めて大判ポスターを作製した。KeynoteとPosteRazorによりA3に分割印刷して、ポスター会場でつなぎあわせた。

空き時間をみつけて、神戸ルミナリエにでかけた。美しい電飾のもとで、幼い子どもたちがお父さんに肩車されている光景は、この神戸ルミナリエをはじめた神戸の人々の夢だったのではないだろうか。開催経費の資金繰りが悪化しているということで、100円募金をさせていただいた。

共同研究者をはじめとした、さまざまな研究者と交流することができ、非常に有意義な学会であった。それにしても、twitterをはじめとした、インターネット上のソーシャルなメディアにより、”フラット”な研究者のネットワーク形成とそれによる情報交換やコラボレーションが加速しているのを肌で感じた学会だった。

Categories: Conference.

新国立美術館 第42回日展

日展は、日本美術展覧会の略称で、1907年(明治40年)の第1回文部省美術展覧会(略して文展)からはじまり、帝展、新文展、そして日展と名称を変えながら、100年以上もの歴史をもつ日本を代表する美術展覧会である。

毎年秋になると、洋画家で、高校時代の恩師である根岸右司先生から招待状を届く。その展覧会に足を運び、先生の作品を拝見するのを楽しみにしている。

根岸右司先生は1938年埼玉県生まれ。埼玉大学美術科を卒業後、渡邊武夫先生に師事した。高等学校の美術の教鞭をとりながら、油絵を光風会展、日展に発表し、高い評価を受けてきた。北海道の凍てつく寒さのなか廃坑や原野を描き続けている、雪の画家である。現在、日展評議員、光風会理事。

根岸右司先生の今年の出展作品は「率土」であった。北海道の厳しい寒さのなか広大な真っ白な雪原が広がり、強風が吹き荒み木々がなびく。光輝く雪原にはところどころ褐色の大地がのぞく。雪原の向こうには、力強く突き出した岬と荒々しい海がみえる。凍てつく大地の厳しさと凛とした美しさがそこにはあった。

高校時代に美術室のアトリエを訪ねると、根岸右司先生はいつも鋭い眼光で、キャンバスに対峙し、厳冬の雪の廃坑を描いていた。訪ねてきた私に気づくと、温かい眼に戻り、アトリエに迎え入れてくださた。作品を拝見しているうちに、高校時代にこうしてアトリエで、北海道の冬の廃坑を描くキャンバスのまえで、人生や生き方について話を伺ったことを思い出した。

教え子であろうか、建築家の小田宗治さんによる雪の画家 根岸右司で先生の作品やプロフィールをみることができる。

Categories: Arts.