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患者が支えるバイオバンクとその未来

患者が支えるバイオバンクとその未来 シンポジウムが11/13(日)に、東京大学医科学研究所にて開催された。患者団体、研究者、難病支援団体などさまざまな立場から多くの方々が参加し、1号館講堂の席は埋まり、熱気に満ちたシンポジウムであった。

日本では文科省リーディングプロジェクト「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」が推進されており、第1期(平成15年度-19年度)では約30万症例のDNA・血清試料を集めたバイオバンク・ジャパンが構築され、第2期(平成20年度-24年度)ではこの試料を活用して、遺伝情報解析が進められ、36の疾患関連遺伝子、12の薬剤関連遺伝子が同定されてきた。今年6月には医療イノベーション会議が「医療イノベーション推進の基本的方針」において、医療分野が今後のわが国の経済成長を担う重点分野として個別化医療を推進することが掲げられており、バイオバンク・ジャパン、個別化医療への期待が高まっている。

本シンポジウムは文科省リーディングプロジェクト「オーダーメイド医療実現化プロジェクト」の主催で開催された。アメリカでは、患者団体が試料やグラントを研究者に提供するなどして協力して疾患研究を進め、患者団体がバイオバンクを運営する取り組みも始まっているとのことで、本シンポジウムではハンチントン病の研究を推進してきた遺伝病財団(Hereditary Disease Foundation) 理事のアリス・ウェスクラーさん、弾力性繊維性仮性黄色腫(PXE)の研究を推進してきたジェネティック・アライアンス代表のシャロン・テリーさんがこれまでの取り組みを講演された。

13:30 開会あいさつ 武藤香織(東京大学医科学研究所 准教授)
13:45 講演 アリス・ウェクスラー氏(遺伝病財団 理事)
14:25 講演 シャロン・テリー氏(ジェネティック・アライアンス 代表)
15:20 パネル・ディスカッション
松原洋子氏(立命館大学生存学研究センター 教授)
指定発言
増井徹氏(難病研究資源バンク、医薬基盤研究所 室長) 他
シンポジウムのタイトルや開催趣旨には希少・難治性疾患とはないが、厚生労働省「希少性難治性疾患患者に関する医療の向上及び患者支援のあり方に関する研究班」が共催し、プログラムではハンチントン病の研究を推進してきた遺伝病財団理事のアリス・ウェスクラーさん、弾力性繊維性仮性黄色腫(PXE)の研究を推進してきたジェネティック・アライアンス代表のシャロン・テリーさんが講演し、ハンチントン病や弾力繊維性仮性黄色腫(PXE)はいずれも希少難治性疾患であることから、希少難治性疾患研究を患者団体と研究者がいかに連携して推進してゆくかというのがテーマのシンポジウムであった。

東京医科歯科大学難治疾患研究所で癌やアルツハイマー病などの難治性疾患研究に取り組むなか、最近、いわゆる希少・難治性疾患研究を研究者の立場でどのようにすれば推進してゆけるかを考え、社会的活動に取り組み始めており、そうした問題意識でこのシンポジウムに参加した。

アリス・ウェクスラーさんは母親がハンチントン病と診断されたことで、その研究を推進してきた。
ハンチントン病の母をもつ歴史学者。カリフォルニア大学ロサンジェルス校女性学研究センター研究員。母親の診断後、父や妹とともに、ハンチントン病の原因を見つけるため、研究者探しに奔走し、研究用の寄付金を集めてきた。1979年から20年間にわたり、ベネズエラにあったハンチントン病の大家系を一軒ずつまわり、4000名から血液提供を受けていったことが知られている。これらの血液は、ハンチントン病の遺伝子の発見に大きく貢献し、医学研究に深くかかわるアメリカの患者・家族のモデルとなった。1986年、一家はハンチントン病の研究を推進するため、遺伝病財団(Hereditary Diseases Foundation)を創設し、現在も研究者をサポートしている。代表作に、ハンチントン病のリスクをもった娘としての葛藤を描いた“ウェクスラー家の選択” 新潮社(2003)がある。
アリス・ウェクスラーさんがいかにしてハンチントン病の解明を目指して、その研究を推進してきたかは、アリス・ウェクスラー(著), 額賀淑郎, 武藤香織(訳), “ウェクスラー家の選択 ” 新潮社(2003)に詳しいので、そちらを参照されたい。

印象に残ったのは、アリス・ウェクスラーさんの“私たちが何を学んだのか?”である。
What have we learned?
1. A few good scientists can mobilize others.
2. Emphasizing commonalities among disease is important.
3. Small informational workshops can bring in new researchers and generate new hypothesis.
4. Young investigators not yet committed to a particular approach are a great resource.
5. Lay people can learn science. Many HD family member are quite knowledgeable about the disease.
最後に疾患に”顔”を与えること、すなわち、疾患名ではなく、その疾患を罹患した患者と研究者が交流することの意義を述べられていた。

ここで研究者としてのジレンマは、希少性疾患は、希少性疾患ゆえにいわゆるありふれた疾患(common disease)と異なり、研究者としては手が出しにくいというところである。

このジレンマは、パネルディスカッションのなかの、アリス・ウェクスラーさんとシャロン・テリーさんの確信をもった答えでもはやジレンマでなくなった。それは、希少性疾患はいわゆるありふれた疾患(common disease)の研究の新しいアプローチになりうるということである。例えば、ハンチントン病の疾患の機序の解明は、アルツハイマー病の機序の解明の新しいアプローチになりうる。

それどころか、希少性疾患の機序の解明は、ヒトのあらゆる疾患の機序の解明およびその疾患の創薬にきわめて大きな役割をはたすのではないか。

シャロン・テリーさんは2人のお子さんが弾力性繊維性仮性黄色腫(PXE)と診断されたことで、夫パトリックとPXEインターナショナルを創設し、その研究を推進してきた。それどころか、PXEインターナショナルでつくりあげた体制は、他の希少性疾患の研究の推進にも活用できるということで、1200もの希少性疾患の研究を推進するジェネティック・アライアンスを立ち上げるなど、非常に戦略的に取り組んでこられている。

本シンポジウムは、東京大学医科学研究所の武藤香織先生らがオーガナイズされたものであったが、非常に素晴らしいオーガナイズで、パネル・ディスカッションではフロアからの鋭い質問にアリス・ウェクスラーさんとシャロン・テリーさんが非常に的確な回答をし、松原洋子先生が非常に上手に司会をするなど、熱い議論が展開された。

Categories: Symposium.