「アホンダラ神童!」「くそったれ天才!」天才ヴァイオリニストと呼ばれた五嶋みどり、五嶋龍の母親である五嶋節さんによる「体当たり教育論」。この「アホンダラ神童!」「くそったれ天才!」は実は著者が考えたタイトルだったのだが、編集部の意見で「『天才』の育て方」になったとのこと。このタイトルで執筆するのは躊躇したとしながら、本書を書き上げたのは著者の子育てへの熱い思いゆえに他ならない。うわべだけの子育て論ではない、迫力のある子育て論が展開されている。
目次をみるだけでも、本書で著者が言わんとしていることがわかる。
第1章 親子は「コミュニケーション」がすべて
第2章 サル真似のススメ
第3章 あなたは私の「世界一」
第4章 過保護のどこが悪いのか?
第5章 お母さん、自信をもって!
著者が言わんとしていることは第1章に凝縮されているといっていい。五嶋みどりや龍を超一流のヴァイオリニストに育てようとしたわけではなく、子どもたちと、ヴァイオリンを通じてコミュニケーションをとり、真剣勝負し、共に成長してきたことが綴られている。
子どもにヴァイオリンを教えて、ほんとうによかったと思えるのは、ヴァイオリンというものが私と子どもたちの間を結ぶコミュニケーションの手段として存在したこと、そしていまも存在し続けていることです。
第2章では、「サル真似をするから成長できる」、「個性は誰にでも備わっている」、「『疑問をもち、考えること』が大切」、「積極的に疑問をもつように」などが述べられている。「疑問をもち、考えること」、「積極的に疑問をもつように」は私が子育てのなかで、もっとも重視していることのひとつで、娘の名前の由来のひとつでもあり共感した。この第2章のなかには「宿題をやらないのは親の責任」という節もある。
龍がニューヨークの公立小学校に通いはじめたときのことです。日本の最近の公立小学校では宿題が少なくなって、ほとんど出さない学校もあると聞きますが、アメリカの小学校はそれに比べて随分宿題が出ます。そして、学校の先生は、両親あるいは親戚などの保護者に対して宿題を手伝ってくださいといいます。
これには最初驚きました。… 親が積極的に子どもの宿題を手伝うよう勧められたことには仰天しました。いや、勧められたというより命じられたといったほうがいいくらいです。しかし、それによって、親子のコミュニケーションが成立し、親子が共に道を歩むことになるのです。
結局、親と子どもと真剣勝負をし、コミュニケーションをとって、共に歩むことができるかどうかなのだろう。親が子どもと共に乗り越えるのであれば、お受験もそのひとつのかたちなのかもしれない。
子育て論ではないが、著者が面白いことを書いている。
60 歳を越したヴァイオリニストが、モーツァルトが10代のときにつくった作品を演奏したもするのです。そこまで歳を重ねれば、10代の頃の初々しい表情や感性といったものは、ほとんど忘れているでしょう。モーツァルトの初々しい楽曲に対して、技術と経験を駆使し、知識と理論で解釈した演奏が名演といわれたりするのですが、はたしてそれが若きモーツァルトの音楽といえるのかどうか。
10代で難曲を弾いた五嶋みどり、五嶋龍への批判への反論なのだが、言われてみれば確かにその通りである。
第3章では「何事にも忍耐力が欠かせない」、「子どもに打ち込めるものを与える」、「子どもに手を出すとき、出さないとき」、「自分の子だけを思いっきり愛して」など、第4章では「結果は重要なことではない」、「子どもと一緒に勉強しましょう」、「『過保護』と『甘やかす』ことは違う」、「過保護なくして親離れなし」など、第5章では「子育てに自信を失っている方へ」などが述べられている。
離婚をして、五嶋みどりを連れて日本を飛び出して渡米した著者が、子どもたちを誰よりも愛し、周囲からの批判をはねのけて信念をもって、真剣勝負で育ててきた生きざまに深く感動した。非常に共感し、また、子育てに取り組んでいる新米の親として勉強になった。子育てをしている、そして子育てに悩んでいるすべての親にお薦めしたい「体当たり教育論」だ。